慰安旅行 -END-



「遅いですよ、二人とも。結局遅れてくるなんて。チェックアウトの時間をずらして教えた意味が無いじゃないですか」
「あ〜っ! うるさいぞ、と。ンな事より二日酔いの薬よこせ。持ってんだろ、と」

 全身の力がすっかり抜け切った俺を担いでるコイツの何処が二日酔いなんだか…。

 俺達がチェックアウトを済ませた頃には、メンバー全員がフロントに集まっていた。
 ルードとニチョが若干やつれて見えるのは…女子メンバー主催の飲み会に二人とも強制参加させられた可能性が高いな。二人とも気の毒に。
 それにしても野郎3人が二日酔いでくたばってんのに、お嬢と優等生は何故こんなに元気なんだ。

「あまり薬に頼るのは良くないですよ。二日酔いには水分補給、ぬるめのお風呂やシャワーを浴びて、汗をかくのが良いんです」
「全部実践済みだぞ、と」

 水分補給はいいとして…。
 風呂浸かって、ナニして汗かいたって事かよ。
 それ、わざとか?
 偶然だよな?
 わざとだったら、アンタが怖ぇよ。

「あら、。具合悪そうね。どうかされたの?」

 やっぱりきたか、その質問。
 そりゃ、二日酔いのレノに肩を借りてるなんて不自然だよな。
 だが、ちゃんと理由は考えてあるから大丈夫だ。

「俺も一人で飲み過…」
「コイツ、ぎっくり腰になったんだぞ、と」

 ………。
 ………。
 ………。




 は?




「だ、誰が、ぎっくり腰だ、テメェ!!」
「昨日パークではしゃぎまくってたら、ギックリとやっちゃったんだぞ、と」
「納得! だから、昨日の飲み会に来なかったのね」

 レノの嘘に納得して頷くお嬢。
 あぁ、頼むから待て。
 お嬢なんかに話したら明日は会社中にギックリ腰説が行き渡ってしまう。



 ポンとルードが俺の肩に手を置く。

「ルードー! なんとか言ってくれよ! 誤解なんだって!」

 長年レノとコンビを組んでるルードなら解ってくれるはずだ!
 救いを求めると、真面目な顔でルードは話しだした。

「ある程度動けるようになったら、『ぎっくり腰体操』をするといい」
「……は?」
「まずは四つん這いになる。そのまま体を前後させる。それが出来たら、今度は左右に尻を振るんだ」
「いや、あの」

 今度はニチョがポンと俺の背中に手を当てた。

「…ニチョ?」
「最初は少し痛むが、そのうちこの体操が気持ちよくなるはずだ。だから焦るな」

 ちょっと待て。
 なんでそんなに『ぎっくり腰体操』に詳しいんだ。
 アンタ等、経験者か?!

「よし、。俺も手伝うから、今晩から体操頑張るぞ、と♪」

 眩しいくらいの胡散臭い笑顔で俺を励ますレノ。
 待て。
 待てよ、テメェ。
 その体操、手伝う必要なんて無ぇだろ、コラ。
 第一、俺はぎっくり腰じゃねぇっての!

「じゃぁ、は明日、遅刻または欠勤するとツォンさんに報告しておきますね」
「はいーっ?!」
「無理はいけませんよ」

 な、なんでこんな時だけ、あっさりと納得してくれるわけ?
 しかも俺以外、全員が違和感無く、都合よく解釈して…。

「よかったな、

 隣でレノがにんまりと笑った。
 全部、アンタに都合良くまとまってしまった。

 でも、これでレノに急な任務が入らなければ、今夜は二人一緒に、部屋でゆっくり出来るかもしれない。
 そう思うと少し嬉しかった。
 さっきからずっと、俺はこの体温と離れたくなくて仕方が無いんだ。
 実際、今、体に全く力が入らないというわけじゃない。
 そりゃ、前身だる重くて腰が痛くて…でも、歩けないというわけじゃない。
 でも、セックスした後に『立てない』と言えば、レノは絶対に肩を貸してくれる。
 だから、俺はそれを利用する。
 レノから離れたくなくて、ずっと一緒にいたくて。
 とんだ甘ちゃんだ。
 時々そんな自分が嫌になる。
 でも、俺は…こうでしか、レノに甘えられないんだ…。





※※※





「よぉ、。ぎっくり腰だって?」

 翌日。
 休みを貰うのは申し訳なくて昼から出社した俺は、本社の通路でザックスと出会った。

「〜〜〜っ! あぁ、そうだよっ!」
「ちゃんと『ぎっくり腰体操』やっとけよ?」
「あぁ、昨夜めいっぱいヤったよ! 放っとけ!」

 なんで社内どころかソルジャーのザックスにまで『ぎっくり腰説』が回ってんだよ!
 ってか、『ぎっくり腰体操』ってそんなにメジャーなのか?!

「いいよなぁ、タークスは社員旅行があって」
「まぁ、一応サラリーマンだからな」
「俺もタークスになろうかな〜♪」
「ソルジャーには無ぇの?」
「俺達はタークスより遠征が多いからなぁ…社員旅行なんて聞いた事無い」

 なんて会話をしながら社員食堂の前を通りかかったその時、

『さぁさぁ、次は総務部調査課のルーキー・君の猫耳写真、1000ギルからーっ!』

「「は?」」

 何処かの赤毛に似た声と『猫耳写真』という不吉なキーワード。
 二人立ち止まって、社員食堂を覗いて見ると、

「1000ギル!」
「1300ギル!」

『もう一声欲しいぞ、と♪』

 社員食堂の中央。ほぼ女性社員で構成された大きな群れの中、テーブルの上に立ってメガホン片手に、写真数枚を高らかに掲げている人物は正しく総務部調査課エースの先輩様だった。

『これは結構レアなんだけどなぁ〜。猫耳は猫耳でも、おしゃれキャットの●リーだぞ、と!』

「2000ギル!」
「3500ギル!」

『お、結構いいとこキタねぇ。他には無いかなぁ〜、と』

「1万ギル!」

 大きく金額を吊り上げたのは、ク、クルクル頭?!

『野郎には売らん』

「ええ?! 酷いよ、レノさん!!」

 ってか、待て。

『さてさて、これを逃すともう手に入らないぞ、と♪ 他には無いかな、と」

 調子乗ってんじゃねーぞ、

「この、バカレノー!!!!!!!!!!!」
























オマケ

「あれ、クラウド。何、その写真」
「あ、ザックス。これ? の猫耳写真」
「は?! なんでクラウドがそんなの持ってんの?」
「食堂に行ったら中央が凄い人混みで、その人混みの近くに落ちてたわけ」
「……な、クラウド。その写真、俺に頂戴?」
「ダメ。これは俺の宝物」
「クラちゃーん。友達、だろ?」
「それとこれとは別問題」



-END-





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