慰安旅行 -1-
慰安旅行 5/26 6/9
本部の予定表に、そんな文字を見つけた。
「………」
「どうした、」
予定表を凝視する俺に、ニチョが話しかけてきた。
「これ、なんだ?」
その文字を指差して、訊ねてみる。
「慰安旅行……」
「いあんりょこう?」
そうか。この漢字は『いあん』と読むのか。
どっちにしろ、意味がわからない。
「つまり、社員旅行だ」
突然背後から現れたツォンさんが説明をくれる。
「えっ、旅行!?」
マジ!?
こんな忙しい中、旅行なんていいのか!?
同じ事を思ってか、ニチョも驚いているようだった。
「我々タークスも会社員だからな。福利厚生の一環として、毎年この時期に1泊の旅行がある」
「もし、その間にアバランチの襲撃があった場合は?」
ニチョがツォンさんに質問を投げかける。
そうだよ。タークスがいない間に、何かあったらどうするんだよ。
「だから、二日あるんだ。二班に別れて出発することになっている」
そ…それでいいのか?
「1班はルード・レノ・・・・。残りが2班だ。私と主任は両日とも本部に残る予定だ。その日は仕事の事を忘れ、楽しんできてくれ」
「……了解」
「…リョウカイ!」
ツォンさんと主任には悪いけど…でも…たっ、楽しそうじゃんっ。
しかも会社の金!! ココ重要!!
なんだかんだ言いつつ、ソワソワしながら俺はその日までを過ごした。
当日。
誰一人遅れる事無く、駅に集合した俺達6人。
目的地は、ネズミのキャラクターが『王様』と言われる、かの有名な巨大テーマパーク。
ゴールドソーサーよりは子供向けか?
列車の中では、レノとニチョが寝てるし、ルードは読書中。
暇な俺は、優等生とお嬢の仲間に入れてもらって、そのテーマパークについて話を聞いてた。
「絶叫系アトラクションも多いですから、も楽しめると思いますよ」
「注目! 夜のショーを見る場合、このポジションからの眺めが最高よ。覚えておきなさい」
「へーっ。二人とも詳しいな」
「ガイドブックを買って、色々調べてきましたから」
「当然。忙しくて滅多に行けないもの。下調べは重要よ」
二人とも、仕事より熱心に調べてきたようだ。
「今晩泊まるホテルはわかってますか?」
優等生に訊ねられて、ホテルの名前を思い出そうとしてみる…あれ…えーっと…?
「公式リゾートホテルの…ほら、ココです。迷わないでくださいね?」
優等生の指がパンフレットの地図を指差す。
あぁ、近いんだ。
なるほど。
「庶民が泊まるホテルにしては、なかなかのホテルだと思うわよ」
「まず、この位置にあるインフォメーションで、荷物を預けた後に解散しますから」
「よし、わかった!」
正直に言うと、あまりよくわかってない。
二人ともスゴイな。任務中より息がぴったり。おもいっきり仕切ってくれてる。
……女ってスゴイ。
「は『ランド』と『シー』どちらに行かれるんですか?」
「あぁ、まだ迷っててさ」
「決定。あなた『シー』へ行きなさい」
「なんで?」
二人は目を合わせると、物凄い早さでガイドブックのページを捲り始める。
「私たちは『ランド』へ行くんですが…」
「これらのグッズは『シー』でしか買えないの」
つ、つまり買って来いと?
「二人とも『シー』へ行けばいいだろ?」
「「『ランド』限定グッズもあるんです」のよ」
どっちにしろ、買って来いって任務に替わりはねぇってことか。
「は必ずミッション成功してくれると信じています!」
「勿論。同じルーキーの中でもの実力は飛び抜けているわ!当然、1番の実力者は私ですけど!」
………。
「リョウカイ」
こういう時の二人には、逆らわない方が良い……。
隣で寝ていたニチョは、いつの間にか起きていた。
ルードがレノを起こして、全員で列車を降りる。
目的地に到着したのは昼過ぎ。
さすが、世界的に有名な某テーマパークだな。
よその国のがデカイって聞くけど、ここも十分な広さだ。
総合インフォメーションで荷物を預けて、優等生からホテルの説明を聞く。
「部屋はツインになります。割り振り発表しますから、よく聞いて下さいね」
女二人は別として。
広めの部屋で男4人全員一緒に…ってのは駄目だったのかなぁ。
人数多い方が絶対楽しいのに。
「とさん。レノさんとルードさん。チェックインは23時までに済ませてください」
妥当だな。
ニチョとコンビ組んで任務あたってるし。レノとルードだってそうだし。
「」
「ん? どうしたんだよ、レノ」
「部屋替われ」
「アンタとか? 別にいいけど」
「なんで俺と替わんだよ、と。お前がルードと部屋替われ」
えーっと、つまり?
「……!」
レノと…一緒の部屋に泊まれと?
「なっ、なんでっ……アンタ、よく俺の部屋に泊まりに来るし…旅先でわざわざ一緒の部屋に泊まらなくてもっ」
「恋人どおし一緒にいたいって思うのは、おかしいことかよ、と」
「こ、こい…?!」
ヤバイ。
ヤバイヤバイ!
んなこと言われるなんて思ってなかった!
反則だろ、それ!
うわーっ! 今、メチャクチャ顔赤い気がするっ!
「それとも、お前はと同じ部屋で寝てぇのかよ、と」
レノのご機嫌メーターが下がった事くらい、声でわかった。
「ちっ、違うっ! 俺だって、いっ、一緒にいてーよ……」
必死で否定をすると、にんまりとレノが笑った。
くっそぉ…恥ずかしい台詞言わせやがってっ!
結局、コイツの思い通りに事が進むんだよなぁ…。
この事を、レノが優等生に説明をしてる間、俺とレノの事情を唯一知ってるルードに話しかける。
「悪いな、ルード。いっつも迷惑かけて」
「気にするな。それより、。頼みがある」
「頼み?」
珍しいな。ルードが俺に頼みだなんて。
「俺は・と行動する事になっているんだが」
「へぇ、意外だな」
「荷物持ちを頼まれた」
なにっ!?
レノはとにかく(?)ルードは先輩だぞ!
「それ、舐められてるぞ! いいのかよ!」
「いや。俺は『ランド』か『シー』で迷っていたから、構わない」
「そ、そうか」
「で、頼みだが。『シー』限定のこれらのグッズ、俺の分も買って来てくれないか?」
………。
「リョ、リョウカイ……」
俺が思っているより、ルードは可愛いモノ好きのようだった。
なんだ…世界は俺が思っているより、うまく回っているようだ。
ハァと溜息つくと、一人でいるニチョが目に入った。
「よ。アンタはどっち行くんだ?」
「フッ。俺には、こんな明るい場所は似合わない。今日は一日ホテルで過ごすつもりだ」
「あ。なんなら俺と『シー』行かね? あいつ等に頼まれたグッズ、一人じゃ持ちきれないし」
「だっ、だが……」
ん?
ニチョの頬が、ほんのり赤い気がするのは俺の気のせいか?
俺から目を逸らして、ぼそぼそと声を出す。
「は…レノさんと二人で行動するんじゃないのか…?」
「なんで? 俺、そんな約束してねーよ?」
「……」
「何?」
「…その発言は、今すぐ取り消した方がいい」
「え?」
ニチョの顔が『後ろ見てみろ』と言っているようで、なんだろうかと振り返ってみると…。
「……お前のソレはわざとか? それとも天然か、と?」
え、えーっと…?
わなわなと怒りオーラを背負ったレノがそこにいた。
「もう一度言うぞ! 恋び「ぅわ―――――っ!!!!!!!」」
さっきの台詞を、よりによって大声で口にしようとするレノ。
慌ててその口を押さえつけて、走ってトイレまで連れて行く。
トイレには誰もいなかった。人も来ないな。よし!
「しっ、信じられねぇ…っ! 俺達の事みんなにバレたら、どーすんだよっ!」
一応、外まで聞こえないよう、控えめの声で文句を言う。
「お前が鈍いのが悪いんだぞ、と」
「だからって、あんな大声で、あんな台詞言う必要ないだろっ!」
本当にバレたらどうしてくれるんだよっ!
これから、どのツラ下げて出勤すりゃいいんだよっ!
「言葉で言わなきゃ、わかんねぇんだろ」
「どういうことだよ」
「ハァ…恋人どおしなのに口約束してないと一緒に行動しないなんてな…」
「え……」
「お前の気持ちって結局その程度か? 俺から何か言わないと、すぐ他の男誘うのか? レノ様、かわいそーっ」
「誘うって…別に、ニチョは俺の相棒で……」
「向こうは、ただの相棒なんて思ってねーんじゃねーのか?」
「どういう意味だよ」
「はぁ…結局、俺への想いはその程度かよ、と」
「………」
そんなんじゃない。
その程度って、そんなわけない。
だって、わかんねーんだよっ。
当たり前のように一緒にいてくれる…って、思ってていいのか、どうか。
だってさ。
こんなに…一緒にいたいって思う相手、アンタが始めてなんだもん。
だから…怖いんだよ。
アンタが飽き性だってのは知ってる。
あまりにも一緒にいる時間が長過ぎて、アンタから「飽きた」とか「ウザイ」とか…。
いつ拒絶の言葉を言われるのか…考えると怖くてたまらないんだ。
だから、レノはいつも一緒にいるわけじゃない、って…自分に言い聞かせてるのに。
俯いて黙り込んだ俺の頭に、ぽふっとレノが手を置く。
「……悪ぃ。言い過ぎた。でも、俺だって傷ついたんだぞ、と」
そのまま優しく頭を撫でられる。
刺々しい雰囲気が消えて、穏やかな声に変わっていた。
そっか。
俺、自分が傷つかない事ばかり考えて、逆にレノを傷つけたんだ。
「ごめん…」
鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなった。
「わかったなら、良し」
ぎゅぅっ、と抱き締められる。
ここトイレだぞ。誰かに見られたら、どうしてくれんだよ…
……とか思いながら、この大好きな温もりを離せられない。
「一緒に…『シー』行くよな?」
「当然だろ、と」
「パレードも見るよな?」
「最前列でな」
「絶叫系アトラクション、制覇しような?」
「……おぅよ」
「何だよ、今の間は」
「君。レノ様は最近残業が続いてたんで…」
「―――レノは仕事を言い訳になんて絶対にしないと信じてるぜ」
「……了解」
「さすが、センパイ」
「お前こそ体力もつのかよ、と」
「一日遊び回るくらいの体力は余裕だね」
「違う。今晩、ちゃんとセッ「テーマパークで下ネタ厳禁!!」」
なんで、いっつも茶化すんだよっ!
一発ぶん殴って、レノを引きずりながらトイレを出ると、インフォメーションの外でみんなが待っていた。
「遅いですよ、二人共」
「悪い!」
「それじゃぁ、チケットを渡します。明日の朝10時にホテルのフロントに集合です」
「リョウカイ!」
優等生からチケットを受け取ると、ニチョと目が合った。
「悪い、ニチョ! 俺、レノと行動するからさ」
「フッ。気にするな。俺もルードさん同様、あの二人に連れ回される事になった」
そう言って、『ランド』方面に先陣を切って進む優等生とお嬢を指差す。
「そっか。じゃぁ、部屋もルードと交替したし、会うのは明日の朝だな」
「あぁ。楽しんで来い」
「サンキュ! アンタも『シー』限定グッズいるか?」
「必要ない」
「そ、そっか! じゃぁ、アンタも楽しんでこいよっ!」
大きく手を振って、女二人の後を付いて行くルードとニチョを見送る。
ある程度離れて、4人の後姿が見えなくなった頃。
「よーやく二人っきりだな、と」
いきなり、ぎゅっと手を握られた。
「うわっ! な、何だよ! 人に見られるだろ!」
放そうと振り回しても、レノの手は離れない。
「別にいいだろ。これだけ人がいるんだ。知ってるヤツなんていねーよ、と」
そ、そっか。
そうだよな。
今日ぐらい…いいかな。
軽く握り返して、そーっとレノの顔を見上げると、満足そうに笑ってくれた。
「行くか、と」
「…リョウカイ」
俺とレノが外で手を繋ぐ時は、いっつも夜。
しかも人がいない所ってのが大前提。
だから、こんな明るい時間帯に外で手を繋いでいるのは初めてで。
しかも私服だし……。
なんていうか…その…恋人どぉし…って感じ?
うっわぁ…乙女じゃあるまいし! 意識し過ぎだろ、俺!
「顔赤いぞ、と」
顔を覗き込んできたレノが指摘するように、俺の顔は真っ赤だろう。
「そっ、そんなことねーよっ!」
自分でわかってるけど、熱を下げようと否定してしまうのは俺の癖。
「あらら? ひょっとして何かイヤラシイ事でも考えてたのかな、と?」
「違ぇーよっ!」
「ハイハイ。ちゃんと夜の分まで体力残しておくから」
「いや、話聞け?」
「せっかく良いホテル泊まる事だしな。スペシャルコースで可愛がってやるから夜まで我慢しろよ、と」
「だから、俺の話聞けーっ!」
なんだかんだ言いつつも、その手を離すことはできなくて。
手を繋いだままゲートをくぐった。
■あとがきと言うか補足■
私の社員旅行が東京ディ○ニーランドor東京ディ○ニーシーで選べたので、そこからきたネタです。
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