MARIA -不完全な君- 03





俺はクラウドを寄宿舎まで送るつもりでいたが、教会の門の外でクラウドは首を振った。

「俺は一人で帰れるから平気」
「でも」

クラウドが住んでいる神羅兵専用寄宿舎と、俺がこれから向かわなくてはならない本社ビルとでは方向が違う。
時間のロスを考えると、ここでクラウドと別れた方がいい。
でも、クリスマスイブなんだ。
もっとクラウドと一緒にいたい。
まだ離れたくない。
俺の葛藤を感じとったのか、クラウドは俺の腹に軽く拳を入れる。

「英雄。なるんだろ?」

笑って俺の背中を押すクラウドは、俺なんかよりずっと男前に思えた。

「…ん。そうだな。俺とクラウドのベイビーの為だからな」

そう返すとクラウドは笑みを深くした。

「そうだよ。約束だからな」

最後に再びクラウドを抱き締めた。
二人でいる時は温かい。
クラウドと目が合うだけで、声を聞くだけで俺はずっと元気になれる。
でも時々、一人になった途端、俺は凍えて死んでしまうのではないかと思う時がある。

「次、いつ会えるかな?」
「俺はザックスと違って暇だから、いつでもいいよ」
「任務終わるのいつだろう」
「ザックスの頑張り次第だよ」
「寂しいな」
「俺はちゃんと待ってるよ」

自分の耳で光る俺のピアスに触れて、クラウドは少し照れたように微笑んだ。

「ザックスの一部がここにある。俺はいつもザックスを感じられるから、寂しくても頑張れると思う…。ザックスは俺を感じない?」
「え……」

俺も…俺も同じ事を思った。
自分だけかと思って恥ずかしかったけど、クラウドも同じように思ってくれていたなんて…。

「不思議。いつもはザックスが俺を励ますのにな」

クスクスとクラウドは笑って俺の耳に触れた。
そこにはクラウドのピアスが光っている。

「ほら、ザックス。言って? いつもみたいに。俺が一番安心する言葉」

クラウドが一番安心する言葉。
それは、俺の口から発せられるからこそ価値があると言っていた。

「…『大丈夫』。絶対に英雄になるし、クラウドの願いは俺が叶える。絶対に『大丈夫』」

その時、クラウドは今日一番綺麗な微笑みを俺にくれた…。




数日後。
本社ビルの屋上で会ったレノに、俺はある物を返した。

「ヘタレ」

あの日、お守り代わりに持って行ったコンドーム。
渡された時と何の代わりもない状態のそれを見て、レノは呆れたように呟いた。

「いいんだよ。ちゃんと繋がったから」
「『心が繋がってる』とかクサイ事言うんじゃねーだろうな」
「そのまさかv」
「あーはいはい。もう聞かねぇぞ、と」

思いっきり『つまらない』という顔で、シッシッと追い払うように手を振られた。
マフラーの事やピアスの事、色々と話したかったのにな。
まぁ、レノは恋煩いを聞くのは好きだけど、惚気話を聞くのは好きじゃないようだ。
それでもって、円満なカップルに波風をたてるの好き。
つまり、人を悩ませるのが好きなわけだ。間違い無い。悪魔だ。
やっぱり惚気るのやめとこ。

「せーっかくコレあげたのにな。結局、オマエのマリアはマリアになれないままって事か」

ピラピラとゴムを太陽に翳したりして弄ぶレノ。
そういえばレノは聖夜をどう過ごしたのだろうか。
本人曰く『本命』の女と過ごしたのか。
それはやはり冗談で、いつもどおり夜の街で楽しんでいたのだろうか。

「レノはどうなんだよ?」
「何が」
「クリスマスは何してた?」
「フラれたー」
「はぁ?!」

フラれた?
レノが?!
タラシのレノが?!
百戦錬磨のレノが?!
女子社員100人斬り達成の異名を持つレノが?!

「相棒が」

………。

「……び…びっくりさせんなよ。天変地異の前触れかと思ったぞっ!」

レノの相棒であるあのスキンヘッドがフラれたという事は、ソイツにずっと付き合っていたということだろうか。

「じゃぁ、レノのマリアも聖夜は無事に過ごせたって事か。良かった良かった」
「まるで俺がサタンか何かとでも言いたげだな、と」
「いやぁ。むしろ年中発情狼?」
「別に下半身の事しか考えてねぇわけじゃねーぞ、と」

プイと横を向いて拗ねた素振りをする。
まずい。言い過ぎたか。

「出来る事なら、もっと大事にしてやりてぇよ」 

………。
はっきり聞き取れないくらい小さな声で呟かれたその言葉は、レノの本心かもしれない。
いつもフラフラと夜の街を遊び歩いて、毎度違う女をお持ち帰りするような奴。
そんなレノが本気になった相手…か。

「レノは優しくないからな」
「そりゃ、どーも」
「褒めてないっつーの。試してみれば? プラトニック・ラブ」

レノは屋上の手すりに体を預けて外を眺めていた。
俺には行動が足りないとレノは言うが、俺からしたらレノには言葉が足りていない。
遊び相手には軽く言えても、本命には『愛してる』の一言さえ言えないと言っていた。
またレノの軽い冗談だと思ってその時は聞き流したけど、今思えば、それはレノの貴重な真実の告白なのかもしれない。

「うりゃっ」

暫くしてから、レノは指先で弄んでいたゴムを手すりの向こう側に向かって放りなげた。

「ど、何処に捨ててんだよっ!」

驚いて手すりの真下を見ると、ゆっくりだが確実に地面に向かってソレは落ちて行く。
だんだんと小さくなりながら、ひらひら舞い落ちる様は、まるで花びらが散り行くようだ…と思ったけど、これは花に対して失礼か。

「だって俺のマリアは、ナカ出し好きですから」

くつくつ笑いながら俺に背を向けて、屋上の出入口へと向かって歩き出す。

「簡単に上手くいかねーから面白ぇんだよ、と。口出し無用」

進展あったらまた聞かせろ、と言い残してレノは去って行った。

恋愛の形も色々あるという事か。
器用だと思っていたレノさえ、本気の恋愛に対しては酷く不器用にこなしているように思えた。

「…俺達、ちゃんと繋がってるよな」

左耳のピアスにそっと触れた。
あの日、クラウドが俺にくれたピアス。
クラウドは今、何してるのかな。





 PRRRRR..... PRRRRR....





また任務だろうか。
着信を知らせる携帯を取り出してディスプレイを確認すると、おもわず笑みがこぼれた。





『着信:クラウド』





直ぐに受話ボタンを押して耳に当てると、数日ぶりのクラウドの声。

『もうミッドガルに着いた?』

嬉しい。クラウドの声だ。

「あぁ、今本社にいる。そうだ。今晩空いてる?」
『うん。何処か行くの?』
「いんや。見たい映画あってさ。飯作るから俺の部屋で一緒に見ない?」
『わかった。仕事終わったら直ぐ行くよ』

クラウドに会える。
それだけで心が弾む。

「あと、正月に連休とれたから、一緒に何処か行こうか」

電話越しにクラウドが笑っているのが伝わってきた。

『そんなに休んで本当に英雄になれるの?』
「へーき! 俺が嘘ついた事あるか?」
『冗談だよ。信じてる』
「俺が英雄と呼ばれる日は近いぞぉ。子供の名前、考えておけよ」
『気が早いよ、ザックス』

暫く軽い会話を続けてから、電話を切る。

夕飯、何作ろうかな。帰りにレンタルショップ行って、スーパーに寄って…あ、掃除しないと。
それにしても、ピアスに触れたタイミングでクラウドからの着信があるなんて…。

再び左耳のピアスに触れてみた。

「…大丈夫、か」
 
これは偶然?
それとも運命?
クラウドの事を考えた事が伝わったのかな。
照れ臭さと、恥ずかしさ。そして愛おしさがこみあげてきた。

「うん…大丈夫だな!」





※ ※ ※





俺はどうしようもなく無力な人間。
その願いを叶える事は、今はまだ出来ないけれど。
いつか必ず、奇跡を起こしてみせるから。
願わくば、今はそのまま、不完全な聖母でいて?
俺の愛しいマリア…。





-end-





■ あとがき と言う名の言い訳 ■

初・ザックラでしたー。
思いついたのがクリスマス前だったので、それにちなんだお話になっています。
FF7にこの宗教は無いと思いますが、許してやってください(苦笑)
マリアの受胎については実際に色んな説が出回っていますが、これは私の持論でもないですし宗教について討論する気もありませんので、納得のいかない点がありましても、見逃してやってくださいませ。
ザックスが、『性行為=NOプラトニック』と解釈出来る事を言ってます。
プラトニック・ラブと言うとそういう意味でとれるわけですが、私はレノとロッドの恋愛もプラトニック…純粋で精神的だと思ってます。
愛する事が下手なレノと、愛される事が下手なロッド。
ザックスとクラウドの恋愛に比べると、かなり不器用な恋愛をしているんだと思います。
ってか、そういうつもりです(笑)
この話とリンクしたレノとロッドの話もありますので、レノのマリアについて気になる方はそちらも宜しくお願いしますv

2008/03/23


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