仕事から帰って、シャワーも浴びずに、ぶっ倒れるようにベッドへダイブ。  数時間集中的に熟睡してから、シャワーを浴びて、また出勤。  それが、俺の最近の日常。




 holiday





 俺は決して仕事熱心なわけじゃない。
 だが、アバランチなんて反神羅組織ができちまってから、ありえないくらい多忙な毎日を送っている。

「次の任務だが…」

「了解です、と」

 早めに任務を終えれば、即、次の任務の話。

「レノ、先日の書類の件だが…」

「あぁ、アレは…」

 本部に戻れば、デスクに埋め尽くされる書類の山。

 任務

 任務

 任務

 書類

 書類

 書類

 定時で帰って行く、普通の社員が羨ましいのはこういう時。

 そして今日。仕事を終えて、タークス本部を出る。
 もうすぐ夜明けの時間だが、これから待ちに待った休暇。
 ただの休暇じゃない。
 すれ違いの生活を送っていた、恋人チャンと偶然重なった休暇。
 携帯の電源なんて、会社を出た瞬間に切る。
 何かあったら、どーぞ、俺達以外の人間を頼ってください。
 これから休みですから。
 何があっても休みですから。
 時間気にせず、好きなだけ寝て、好きなだけイチャイチャして、体力精神回復に勤しみますから。





 朝日が差し込みつつある頃、マンションに到着。
 同棲中のハニーは、ベッドで爆睡中。
 口を開けて寝るソイツの間抜け顔を見ると、ようやく帰ったって気分になる。
 ベッドの真ん中を独占しているソイツをドカッと蹴れば、『うーっ…』と唸りながら、端へ寄る。
 平気平気。んな事で起きるわけが無い。
 新人とはいえ、コイツも仕事に追われて急がしい身。
 最近は俺の方も、コイツが出勤する時間を知らない程、熟睡している始末。
 空いたスペースに寝転がれば、突如襲いだす睡魔。
 シャワーは明日でいい…。
 ……っつーか、温泉いきてーな。
 んなオヤジくさいことを考えちまうのは、疲労が溜まっているせいに決まってる。


「……ノ」

 …………。

「……ノ!」

 …………。

「起きろっつってんだろ、バカレノ!」

「………っ……るせーぞ、と…」

 掛け布団を剥ぎ取られると同時に、やたらデカイ声の凶器が俺の頭に攻撃を仕掛けてきた。
 重たい瞼を上げれば、カーテンが全開。陽光が目に痛い。

「うるせーじゃねぇっつーの! ほら、さっさと起きろ!」

 頭にガンガン響く大声を発する恋人は、何やら腕を組んで俺を見下ろしている。
 一体、今何時なんだよ。
 部屋の時計を見上げれば…
 おいおい、まだ3時間しか寝てねーんだけど……

「……もう少し寝かせて……あと…5…」
「分?」
「……時間……」
「起きろ。今すぐ起きろ」

 遠慮無く、ゲシゲシと蹴ってきやがる。
 コイツに労りの心はねーのかよ、と……

「……ちょ…久しぶりの休……」
「偶然だな。俺も久しぶりの休暇だ。買い出し行っときてぇし、汚ぇ部屋は掃除してーの」
「……どーぞ、俺の事は放っておいて、遠慮無くやっちゃってください……」
「良い天気だし、布団干してーんだよ。だから起きろ。そして、しばらくどっか行け。邪魔だ」

 『どっか行け』

 『邪魔』

 さすがの俺もキレた。
 気だるい身体に鞭打って、ベッドから降りる。

「……ハイハイハイ。じゃぁ、やっさしーオネエチャンの所でも行って、思う存分寝てきますよ、と」

 挑戦的な事を言ってみると、ピクリとは反応を示した。

「おぉ。そーしとけ。シャワーも浴びずに汚ねーまま行けるのならな」

 うわっ。可愛くねぇ。

「別に。向こうで一緒に風呂入っちまえばいいことだし? レノ様と一緒に寝たい女なんて幾らでもいるからな、と」
「あーそう。じゃぁ、好きなだけ楽しんでこい。こっちも、自分の好きなように休暇を満喫できてラッキーだ」
「そうさせていただきますよ、と」

 切っていた携帯の電源を入れて、適当に電話をかける。

「あ、俺。今から部屋行っていーか、と?」

 チラとこっちを見たと目が合う。

「じゃ、今すぐ行くわ」

 目を見開いたを見て、口端を吊り上げる。
 会話を終えて、ドアへと向かう。
 さぁ、どうする? 

「レノ」
「んー?」

 振り向かず、ドアノブに手を触れる。

「……今晩帰ってくるのか?」
「さーな、と」
「……あ、そう」

 ……あ、そう…って。
 そこで終わんのかよ。
 お前の俺への気持ちって、その程度かよ、と。

 何も言わず、部屋を出る。
 朝日が眩しい。
 雲一つ無い、どこまでも広がる青い空。
 それに反して、どこまでも曇りやがる俺の心。
 重い足を、電話をかけた相手のマンションへと向ける。

 俺は、お前と休みが一緒ってだけで、結構浮かれてた。
 お前にとっちゃ、どうでもいいことだったわけだな。
 一緒にいたいとか、これっぽっちも思わねーわけだな。
 よーく、わかりましたよ、と。





「……ノ」

 …………。

「……ノ」

 …………。

「レノ!」

「………っ……?」

 目を開ければ、蛍光灯の光を浴びて眩しく輝くスキンヘッド。

「……ルード? 何してんだよ、と」
「お前がいきなり電話してきたんだろう。『今から部屋へ行く』と」

 良いとは言っていない…と一人でぶつくさ言うルード。
 周りを見渡せば…あぁ、確かにルードの部屋だ。
 あ、そうそう。思い出した。
 あの時、ルードに電話かけたんだったな、と。

「一体、どうやって入ったんだ」
「オートロックだろ? サンダーで軽くバチッとやれば開いたぞ、と」
「……壊したのか」
「もう1回サンダー使えば、直るんじゃねーか、と」
「……今度、カードキー渡すから二度とやるな」

 髪をかき上げて、部屋の時計を見る。
 まずい。寝過ぎた。
 8時といっても、夜の8時。
 でも、おかげで頭はスッキリした。

と喧嘩でもしたのか」

 言われて思い出した。
 喧嘩…って言うほどでも無い気がするが。

「……ったく、お前までマットレス干しやがって」

 そう。
 本当は女の所に行こうかと思った。
 だが、ただ寝るだけで済むわけ無い。
 体力回復したいのに、消費してどうする。
 だから、ルードに電話した。
 ルードの部屋にある、誰と寝るわけでも無い癖に無駄にでかいベッドを目的として来たのに。
 肝心なマットレスが堂々と干されていたので、ソファーで眠った。
 まぁ、ソファーの寝心地も悪くは無いが、やはりベッドで寝たかった。

「今日は良い天気だったからな。洗濯日和だった」

 こくこくとと頷くルードを尻目に、ハァと溜息をつく。
 帰り辛い。

「なぁ、ルード。今日、泊まってもいーか? レノ様が添い寝してやってもいーぞ、と」
「遠慮する。お前がソファーで寝るなら、考えてやってもいいが…」

 水分補給しろ、と水の入ったコップを手渡される。

「今日は帰る事を薦める。明日からまたすれ違いの生活だろう。早く謝ってやれ」
「何で俺が謝らなきゃいけねーんだよ」

 俺は悪くないだろ。
 どう考えても。
 ただでさえ謝るなんて行為は、俺のプライドに障る。
 悪気も感じないのに謝るなんてのは言語道断。

「……これは、に口止めされていたんだがな…」

 少し考えたそぶりをしてから、ルードは話し出した。
 が…口止め?



「なぁ、ルード」
「どうした」
「あのさ、すっげー疲れてる時って、何すると楽になる?」
「………?」
「なんでもいいからっ! 俺はとにかく寝ることかなー、なんて思ったんだけど」
「……そうだな。寝るだけなら、布団を干すだけでも違うと思うが」
「布団? 俺、ベッドだけど?」
「天気がいい日に、マットレスを干すといい」
「へぇ…」
「あとは、美味い食事とか、適度な気晴らしとかな。人それぞれだと思うが」
「なるほど…」
「レノが気になるか?」
「……えっ!?」
「あまり気を遣うな。疲れているのはお前も同じだろう。仕事を終えてからも、トレーニングを続けているのは知っている」
「し、知ってたのかよ……」
「レノは気づいていないかもしれないがな」
「なら、いい」
「無茶はするな。仕事に差し障る」
「リョウカイ。あ、この事、レノには内緒な!」
「トレーニングのことか?」
「それもだけど…疲れをとる方法、聞いた事とか……」
「わかった」
「サンキュー!」



「………と、いうわけだ」
「は?」

 えーっと、つまり、なんだ?
 が俺を追い出したのは、布団を干す為で、布団を干すのは俺の為?

「早めに帰ってやれ。待ってるはずだ」
「……解りにくい…もう少し素直に言えっての……」
「それはお互い様だろう。お前も素直に言えば良かったんだ」
「なんて?」
「『一緒にいたい』」
「んなカッコ悪ぃ台詞、誰が言うか!」
「その点もお互い様だ」
「〜〜〜っ」

 そんなに俺をいじめて楽しいか、相棒。

「ハイハイ。大人しく帰るとしますよ、と」
「あぁ、そうしろ」

 はぁ……。
 一体、どの面下げて、会えばいいんだよ、と。



 色々考えつつ、とうとう帰って来てしまったマンション。 

「……?」

 電気はついているが、部屋はやたら静かだった。
 出かけてるのか?
 周りを見渡してみる……発見。
 リビングの小さなテーブルに頭を伏せて眠っている。
 ……ってか、その本人の前に並べられている料理の方に目が行った。

。おい、起きろって。風邪ひくぞ、と」
「………ん…レノ?」

 肩を揺すると、ゆっくり瞳を開ける。
 寝惚けた顔で俺を見上げると、俺の胸に頭を押し付けてくる。
 手は背中に回って…寝惚けて甘えてるのか?
 まるで子供が甘えているかのような行動。
 戸惑いを感じつつ、俺もを抱きしめる。

「帰って来るの遅ぇよ…マジで女の部屋行ってたの……?」

 何だ……気にしてたのかよ。

「さぁ、どーかな、と」

 軽く意地悪するように言うと、眉を下げて見上げてくる瞳に涙が溜まる。
 あぁあ、今にも泣き出しそう。
 こういう顔見ると、余計に虐めたくなる。
 でも、今日は優しくしましょうか。
 せっかくの休みなわけだし。

「行ってねーよ」

 笑って言ってみるが、の表情は晴れない。

「嘘だ。レノ、石鹸の匂いがする」
「そりゃ、ルードの部屋でシャワー勝手に借りたからな」
「……ルード?」
「そ。頭ツルツルなルード先輩の部屋ですよ、と」
「本当かよ」
「信じるも信じないも、お前次第だぞ、と」
「……じゃぁ仕方ねーから、信じる」
「なんだ、そりゃ」

 クシャクシャと髪を掻き回すように頭を撫でると、目を細めて、ようやくも笑った。
 いつも『ガキ扱いするな』と怒る行為も、今日は気持ち良さ気だ。

「ところで、この料理一体どうした? 今日、誰か来る予定だったのか、と」

 今日は、何かの記念日だったか…と考えてみたが、何も思い浮かばなかった。
 頑張り過ぎだろ、と言いたいくらいの品数に、俺の好きな酒まで置いてある。

「……レノと」
「俺と?」

 背中に回された手が離れて、俺の胸倉を掴む

「レノと一緒に飯食いたかったんだよ! 悪いかよっ!」
「!? お、ちょ、落ち着けって、!」

 突然、ガクガクと身体を揺さぶられる。
 せーっかくイイ感じの雰囲気だったのに、何だよ、この展開。
 パッと手が離されて、また俯く
 どうしちゃったの、コイツ。
 酒入ってる?
 いや、酒臭くねーな。
 さっきから訳が分からない。

「…最近……レノとすれ違いばかりで…まともに話もできなくて………」

 ………。

「ちょっと前に、今度の休みがレノも休みだってわかって……それで……」

 ……あぁ、そうか。

 全部、俺の為か。

 すれ違いばかりの生活。
 お互い任務に明け暮れて。
 が、本部で寝泊りすることもあったし。
 俺が出張で何日か家に帰らない事もあった。
 二人で話をする暇も無くて。
 一緒に飯を食う時間も無かった。
 気にしていたのは俺だけじゃなかった。
 寂しかったのはも同じだった。

 また抱きしめる。
 息できないくらい抱きしめる。

「……レノ、苦し……」

 えぇ、わざとですから。

「そうか、そうか。レノ様と一緒にいられるのが、そんなに嬉しかったか」

 浮かれてたのは俺だけじゃなかった。
 コイツも休みを楽しみにしてた。
 二人でいられる時間が待ち遠しかった。

「てめぇの給料じゃ苦しい酒も、つい買っちまう程、レノ様が好きか」

 何、コイツ。
 普段は生意気で、素直じゃないくせに。
 時々見せる可愛さは半端じゃねぇ。

「…うるせー、黙れ、放っとけ」

 そんな憎まれ口さえ、やたら愛しい。

「じゃぁ早速、飯にするか、と」
「…おぅ」

 むしろ食っちまいたいのは、お前の方なんだけど。
 今は普通に空腹なんですよ、と。
 なんてったって、今日は朝から何も食ってないもんで。

「……ショッパイ」
「マジかよっ! ちゃんと本見ながら作ったのに」
「ウソv」
「……死ね」
「そうか。つい料理の本を買ってしまうほど浮かれてたのか、と」
「さっきから、うるせーんだよ! 何なんだよ、アンタ!」

 愛されてるって実感。
 悪くない。
 むしろ安らげる。
 コイツに会うまでは、『愛』なんてのは性欲の言い訳だと思ってたけど。
 ホント、ヤバイくらいハマっちまってるのは俺の方だろう。
 まぁ、惚れさせた責任はとってもらうけどな、一生かけて。
























おまけ


「うわっ。ベッド、マジで気持ちいー」
「そうだろ? 干して良かっただろ?」
「……サンキューな、
「?」
「俺の為に、気遣ってくれて……」
「べっ…別に……」
「お前の方も、色々疲れてんのにな……」
「…あ、あのさ……俺、早く一人前のタークスになって…絶対、レノの負担軽くしてやるから…」
「嬉しい事言ってくれる。そーだな…だけど、気遣い過ぎんじゃねーぞ、と」
「うん。でも今は、このくらいの事しかできねぇからさ……」
……」
「レノ……」
……じゃぁ俺の為に、ベッドだけじゃなくて、ベッドでの行為も気持ちよくしてくれるよな、と?」
「やっぱり、テメェは過労死しろ!!」



-end-




2011/06/27

目次 



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